昨年も憲法記念日にこの集いが開かれましたが、昨年を上まわる多くの皆さんで会場いっぱいですが、さきほど外をうかがいましたら青空の下で、宣伝カーの音で聞いていらっしゃる方が何百人といらっしゃいました。すばらしいことです。本当にありがとうございます。
私は、有事立法の問題にしぼって、この法律のねらうもの、危険性についてお話をさせてもらいたいと思います。
ここに私、その有事三法案のいちばん元になる、いわゆる武力攻撃事態法といわれている法律の文書をもってまいりました。名前が「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」。こう言われますと、あたかもどこかの国が攻めてきて、その時に国の安全、国民の安全をはかるための法律だと、名前からして、国民の皆さんを惑わす名前がついています。これは真っ赤な嘘、偽りの名前だということをまずはっきり申し上げたいと思います。
この法律をはじめとする三つの法律案、ぜひ皆さん、法案そのものを読んでいただきたい。私も何度も何度も読んでいる最中です。連休明けの特別委員会で、私自身も総括質疑に立って追及しようと思っておりますが、いま一生懸命読んでいるところなんですが、読めば読むほど恐ろしい。
まず第一に、この法律というのは、国民の安全を守る法律ではありません。アメリカがどこかで介入の戦争を始めたら、そこに日本を参加させるむき出しの参戦法案、これがその正体だということをまず言いたいと思います。
この法律を見ますと、有事立法が発動される「武力攻撃事態」という事態にについての定義があります。二つのケースがあると書いてあります。一つは武力攻撃が発生した事態、ここには、武力攻撃の恐れのある場合を含む、となっています。もう一つは、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態。二つのケースが書いてあります。これを見ても明らかなように、この法案というのは、現実に日本に対するどこかの国の武力攻撃が発生した事態だけではなくて、武力攻撃の恐れのある事態、予測される事態でも有事法制が発動されるしかけに、まず定義からなっております。
それでは次に、どういう場合がリアリティー、つまり現実性をもった危険かということを考えてみたい。日本の周りに、日本への大規模な武力攻撃をかけてくる意図や能力をもった国があるでしょうか。どこの国がいったいそんなことをやるのでしょうか。能力もっているのはアメリカだけですね。まちがいありません。アメリカを別にしたら、そんな能力を持った国はないですよ。私たち国会で聞きました。そうしましたら、首相の答は、「これは特定の国を対象としたものではありません。国の名前は言えない」。防衛庁長官の答は、「我が国を侵略する能力を持った国が現れることは、三、五年のタームでは想定できない」。三、五年どころか十年たったって、二十年たったってアメリカ以外想定できないんですよ。つまり、日本をどこかの国が攻めてくるというのは、およそリアリティーがない、現実性がないということは、政府も認めざるを得ないというのが現実ではないでしょうか。
ところが、今度の法案を見ますと、およそ荒唐無稽なことが書いてあります。自衛隊の戦車がいざ有事になったら道路を走っているだけでは間に合わない。畑や田んぼの中を走らなければならない。そのために法改正が必要だ。それとか、敵が攻めてくる、自衛隊がそれに備えて陣地をつくらなきゃならない。陣地をつくるために土地を収用したり家を収用しなければならない。そういうことが大真面目に、まことしやかに書いてあるわけですが、しかし皆さん、ちょっと考えてみると、いま言った自衛隊が田んぼの中を走るとか陣地を作るとかというのは、日本の本土の上で地上戦が行われるという事態を想定しているわけでしょ。しかしみなさん、日本の本土で地上戦がどうして行われるのでしょうか。現代戦争ではまず最初に空爆をやって、どこかの国が日本の北海道から沖縄まで空爆をやって焼け野原にまずする、そのうえで、どこかの国が上陸作戦をはじめて、さあそれを迎え撃つというのが地上戦なんですよ。およそこんなことは、戦争が好きで好きでしょうがないマンガの世界でしか起こりえないことで、本当にこんなことを想定して国民を惑わすのは許しがたいことだと私は言わなければなりません。
それではリアリティー、現実性をもった危険というのはどういうものでしょうか。
これを考える場合に、まだ現に米軍がアフガニスタンへの報復戦争をまだ続けているんです。まだアフガニスタンの人々を殺しているんです。そして、その米軍を助けるために、はるかインド洋まで海上自衛隊が出ていって支援活動をやっているのです。この支援活動をさらに半年延長して十一月までやる、アメリカが戦争をやる以上とめどもなくつづけてやっていく、現にやっている戦争、現にある危険、ここにまずあるということを忘れてはならないのではないでしょうか。
さらにアメリカは、この戦争を拡大しようとしている。ブッシュ大統領が今年一月の一般教書演説でイラクとイランと北朝鮮を「悪の枢軸」だと呼びました。これらの国々はテロを支援している、あるいは大量破壊兵器をつくっている疑いがある、だからアメリカが一方的に、先制的に攻撃したってかまわないんだ、という恐るべき発言をしました。先制攻撃を当たり前だと思っている国なのです。
私きょう、ここに持ってまいりましたけれども、ラムズフェルト国防長官が最近『フォーリン・アフェアーズ』という雑誌の五、六月号で、「変化する任務、変貌する米軍」という論文を書いています。これをみますと、「備えあれば憂いなし」――なんだ小泉さんが言っていることは結局アメリカ製ではないかというのがすぐわかるんですが、恐ろしいことがいろいろ書いてあります。その「備えあれば憂いなし」の中身として、たとえばこういう文章があります。「アメリカを防衛するには予防戦略、そして時には先制攻撃も必要になる。すべての脅威を相手に、いつでもどこでも防衛策を講じるのは不可能である。テロやその他の姿をあらわしつつある脅威から国を防衛するには戦争をも辞さない覚悟をもつべきである。攻撃は最大の防御であり、時にそれが唯一の防御策である場合もある」。ここまで言いきっているんですよ。先制攻撃で相手をたたきのめすと。
この「悪の枢軸」論、世界の皆が非難しているでしょう。中国、ロシアだけではない。EUヨーロッパ連合もみんなこれを批判している。賛成しているのは小泉さんだけ。オーストラリアのハワード首相がもう一人いますが、二人だけなんです。もしイラクの戦争をアメリカがやったら、へたしたら日米だけで戦争をやる危険性がある。これが現実に起こりうる、目の前にある危機ではないでしょうか。
みなさん。アメリカが世界やアジアでそういう介入戦争をやったら、アメリカの言うことは何でも言いなりというのが日本の政府ですから、その時に、これは「周辺事態」だと、日本の平和と安全に重大な影響を及ぼす事態だと、放置すれば日本に武力攻撃にいたる恐れのある事態だ、周辺事態だ、まずアメリカ言いなりに認定しますよね。そうしますと、武力攻撃事態法、「おそれ」や「予測」でも発動できます。周辺事態法も武力攻撃事態法も同時に発動して日米共同で介入戦争をやるというのが、この法律のねらいであり、本質であるということをはっきり見抜いて「ノー」の声をあげようじゃありませんか。
さて、第二の問題ですが、この法律というのは、その時に国民の自由、人権、これを踏みつけにする、強制動員をやる、戦時体制をつくる、ここにもう一つの問題があります。この法律をみますと、いくつもぞっとする条文があります。
例えば、武力攻撃事態法第八条ですが、「国民の協力」という項目があります。「国民は、……対処措置を実施する際は、必要な協力をするよう努めるものとする」――これは事実上国民に戦争協力を義務づける条項です。ではみなさん、従わなかった国民はどうなるでしょうか。それは法律に反した国民ということになるわけです。みなさん、戦前の「非国民」、国民に非ずといって迫害された、それがもう重なって出てくるではありませんか。
それから武力攻撃事態法の第十五条、これを見ますと、地方自治体は首相の指示のもとに置かれ、その指示に従わなければ、首相の直接の執行もできると書いてあります。私、ガイドラインの審議の際に、九六年四月に統合幕僚会議などがつくったアメリカの日本に対する千五十六項目の要求文書、内部文書を告発したことがありました。これは朝鮮有事の際に米軍が日本に何を求めたかということの告発文書なのですが、その中には民間を、自治体を強制動員するというシナリオがはっきり書いてありました。十一の全国の民間空港、十一の全国の民間の港湾、これをアメリカ軍専用に切り替える、その要求がはっきり書いてありました。
しかし皆さん、周辺事態法では、自治体への協力を求めることができるとしか書いてない。はっきり強制力はない。ところが、こっちになりますと、指示ができるし、従わなかったら自ら執行できる。まさに地方自治を全面的に踏み破って、空港だろうが港湾だろうが、全部アメリカ優先に切り替えるということを強権をもって発動できるようになる。この仕組みもプログラムに入っています。
それから同じ第十五条に指定公共機関というのが出てきます。これが首相の指示のもとに置かれて、従わなければこれも直接の執行ができるという規定がある。指定公共機関とは何か。何も書いてないのです。書いてないところが怖いのです。例示は書いてありますよ。日本赤十字社、日本銀行、NHK等々と書いてあります。しかしそれだけにとどまる保障はない。民放だって入るかもしれない、雑誌・新聞だって入るかもしれない。電力・ガス・医療・通信、そういうものは公共的仕事をやっているということだったら全部、首相の統制下におかれる。ですから私、マスコミの方にも訴えたいのですよ。メディア規制の法律に反対する論陣をはっているのは心強いかぎりですが、この有事立法ほど言論の自由を危機にさらす法律はないと思います。ある日突然、テレビをつけたら、民放まわしたってNHK回したって小泉さんの訓話しか出てこない、軍艦マーチが流れている。電話で家に連絡とろうと思ったらNTTも米軍優先、自衛隊優先で使えない、こういう状態になるわけです。
さらに皆さん、私怒りを抑えることができないのは、改悪されようとしている自衛隊法第百二十五条です。ここには、取扱い物資の保管命令というのがありまして、それに違反した者には懲役ないし罰金刑に処するというのがあります。ところが、法律を読んでも、何をもって取扱い物資とするのか規定はどこにも書いてありません。これは政令もつくらないというのです。つまり首相の一存で何でも動員物資にできる。ですから燃料が必要ならばガソリン・スタンドも統制下に置かれる。食糧が必要ならコンビニエンスストアも、町の商店街もみんな統制下におかれる。お米が必要だと取扱い物資に指定されたら米屋さんも商売できない。こういう事態になるわけです。
戦前の国家総動員法というのがございますでしょう。一九三八年。あれを見てみました。あれでは第二条、第三条で総動員物資、総動員業務、ちゃんと法律で決めてあるのです。戦前の法律だって、法律で徴発する物資はこうですよと決めていた。こんどは法律にも書いていない。無制限なんです。何でも取り上げることができます。これは皆さん、戦前の国家総動員法以上の悪法だとこの点では言わなければならないと私思います。
これに従わなかったら罰則だと、懲役だといいますが、この問題を国会で追及しますと政府は、罰則をかけるのは悪質なものに限るといいます。しかし皆さん、何をもって悪質というのか、今度はそれが問題になります。私は戦争には協力できないという信念をもって物資の保管命令を拒否した国民を悪質とよぶのでしょうか。お米屋さんが、私は戦争に反対です、だから平常どおりお米の販売をつづけます、これを悪質な米屋というのでしょうか。しかし、法律では悪質になってしまうんですよ。
皆さん、戦争に協力できないという信念にもとづいて保管命令を拒否した国民を犯罪者にするといいうことはどういうことでしょうか。それは戦争への非協力、拒否という思想・信条を罰することになるのではないか。そうなりますと、憲法十九条に「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とはっきり書いてあるこれを、まさに正面から踏み破ることになるのではないでしょうか。だいたい罰則、罰則といいますが、日本は憲法九条をもっているのです。九条には何と書いてあるかといえば、戦争をしてはならない、戦争に協力してもならない、九条の立場からいえば戦争をやること、協力することが犯罪ではないでしょうか。反対に戦争に協力しない、そういう信念を、そういう思想・信条を懲役や罰金という刑罰で脅し、戦争への非協力を犯罪者とするのは、これ以上の憲法違反はないということを私は皆さんに訴えたい。
さらにもう一つ、武力攻撃事態法の第三条第四項にはこういうのがあります。「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利は尊重されなければならず、これに制限がくわえられる場合は、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続きの下に行われなければならない」。法律をつくればいいということです。必要最小限だからいいといっています。しかし、必要最小限、必要最小限といって世界第二の軍隊をつくっちゃったのは自民党でしょう。何の歯止めにもならない。法律さえつくれば国民の自由と人権がいくらでも制限できるというのは戦前の大日本帝国憲法ともちっとも変わりがなくなるではありませんか。皆さん、そう人権がいくらでも制限できるというのは戦前の大日本帝国憲法ともちっとも変わりがなくなるではありませんか。皆さん、そういうことをやったことが国民を無権利状態、暗黒状態においたことが、あの侵略戦争につながった、だからこれはもう絶対に国民の基本的人権は永久に侵してはならない、そういうことを決めたのが日本国憲法ではありませんか。
私は、憲法と有事法制は絶対に相容れない、憲法の平和原則を壊し、基本的人権を壊し、地方自治を壊し、首相に絶対的権限を与え議会制民主主義を壊し、そしてアメリカの戦争に日本を参戦させるという意味では国家主権、国民主権も壊す、憲法を総破壊するこの悪法を食い止めるために、最後まで力を合わせようではありませんか。
私たち日本共産党も最後まで共に奮闘する決意を申し上げましてごあいさつといたします。