2002年5月3日憲法集会

埼玉大学名誉教授 暉峻 淑子

私は健康について自分の身体を過信していたのですが、四、五日風邪をひいていたらと思ったら昨日の夜中に苦しくて目がさめて、熱をはかったら四〇度もありました。それでも、どうしてもここには来たくて這うようにしてきたのですが、皆様のお顔を見たら、「ああ、来てよかった。憲法を愛する人たちがこんなにもいるんだ」ということで、私も元気をわけていただきました。皆様、ありがとうございしまた。

いろいろな方のお話がありましたので、私は、すこし見方を変えて国民の生活の中からどうしても憲法を守らなければいけないという話をしたいと思います。

いま、雇用不安、つまりリストラをされる。それからいま高校卒業と大学卒業の人は、文部科学省が五月一日に調査をしたのですが、卒業した後五二%くらいしか就職できていません。後の人はどうするのかというと、パートであったり、フリターという非常に不安定な職業についています。そういう職業の人は、結局正規社員でないから会社に入って、ちゃんとした研修を受けることもできない。単純労働だけをただ、コンピューターにいろいろなデータを打ち込んだり、そういうことをしています。昔は五年もそういう期間を過ぎるとフリーターでも正規社員になれる可能性があったのですけれど、今はほとんどありません。いっぺん正規社員になれなかった人は、会社の研修も受けられないし、そのままずっとフリーターです。

そして、そのフリーターの人たちは、まず社会保険がほとんどありません。よほど理解のある会社で、週二五時間以上働いているというようなことだとつけてくれているところもありますが、多くはつけてくれない。

いま、失業者のなかでどれだけが失業保険をもらっていると思いますか。もらっている人は半分です。あと半分はもともと失業保険もかけていないし、自分がパートで働いていた会社が雇用保険に加入していないから雇用保険の保険金をもらおうとしても、もともと半分の人がもらっていません。しかも、日本の雇用保険というのは、五年間雇用保険をかけつづけて、もらえるのはたった三ヶ月です。こんなバカなことありますか。小泉さんは三年くらいは痛みをガマンしろと言っていますが、三年の痛みがどうして三ヶ月の失業保険でガマンできるのでしょう。いくらかっこいいことを言っていても、総理大臣というのはまず国民の福祉、国民の生活の保障を考えるのが当たり前のことですね。やれ、有事立法だ、靖国神社にお参りするだということは、何も私たちの生活にはプラスになりません。

失業がずっと長く続くだろうということは財界の人も言っています。それはなぜかというと、パートの人はだいたい正規社員の半分しかお金をもらっていません。同じ仕事をしていてもそうです。だから、いつでもクビが切れて安い賃金で使って、使い捨てにできるというのは財界にとってはとてもいいことなんです。だけど、それはしてはいけない。それはなぜかというと、そういう若者たちが、そういう形で失業をして、将来どうするかというと、いま二五歳前後の青年がいちばん不安をもっているのです。というのは、年金があるかないか分からないからです。それで、正規社員にもなれない、社会保険もつけてもらえない、しかも健康保険はこんど三割負担になります。これは今度国会で議論されることですが、最高四万二千円位までは自己負担という原案がいま出されています。こんな不況のなかで、そんな私たちひどいことをするというのは、私は本当にガマンできないということです。

そして平和と人権と民主主義というのは、三つは縄のようにいっしょになって初めて効力があると思うのですけれども、その中でいちばん大事なのは平和だと思います。平和でなかったら私たちは軍事的な流れに流されてしまいます。私は軍事文化と福祉文化というのですけれど、軍事文化というのは何でしょうか。これは上の人が下の人にただ命令をする。下の人は、そういうことは間違っているのではないですか、などとは言えない。

こんどの有事立法では、私たちしは「予測される」、敵がくるのではないかと恐れを感じるというのと、予測できるという二つあるのです。「恐れ」の方が「予測」よりちょっとあいまいで、その予測のときにもう陣地を構築していいことになっているのです。そしてその陣地は私有地であってもかまわない。つべこべ言えません。たとえば国有林で、誰も木を切ってはいけません、といっているところにもそういう陣地は構築してかまわない。またミサイルが飛んできて、不幸にして誰かが死ぬと、いま私たちは人間の死というのはとても大事なことですから、医者の死亡証明があって火葬して、きちんとした手続きを踏んでお墓に入ります。ところが、今度の有事立法では、そういう手続きは何もなくていいということになっているのです。パレスチナで戦車の下敷きになったとか、南京大虐殺では本当は何万人死んだかわからない、そういうことを平気でこんど有事立法に書いてあるわけです。こういうのって、本当に人権をないがしろにしていると思いませんか。私は、どこで死んだかわからないような死に方はしたくありません。ちゃんと死亡証明をもらって、火葬してもらいたいです。

だから、こんになことが平気でおこなわれようとしていることに、私たち反対をしないといけない。もともと周辺事態法が通ったときに、日本のまわりだけでなくて、アメリカが動くと中東の向こうとかアフガンとか、そういうところで軍隊で戦争をしても、日本はそこに補給をしたりして、アメリカを助ける、そういうことを決めました。これが簡単に通ったものだから、もう何をやってもいい感じになっているような気がします。

有事法制というけれど、日本は有事をつくらないというのが日本国憲法なのです。有事になる前に私たちが外交的な力、あるいはNGOの力、あるいは国民が助け合うということで、有事をつくらないというのが憲法なんですね。実はテロがあったときに東洋経済新報社だったと思いますが、主たる政治家がそれを見たり聞いたりして真っ先に何を言ったか書いているのですが、小泉さんは山崎さんとテロの後始めて会った時に、「私はついてる」と言ったというのです。何がついているというのか、結局は有事立法を通したい、そういうことだったと思いますが、そういう軍国化のいいチャンスだということだったと思います。

小泉さんが「構造改革」をするとかいろいろなことを言っているけれど、経済というのは、人間のためにあるわけでしょ。人間がつつがなく、平和につましく、ともかく生きていけるために経済があるわけです。これだけ失業者をつくり、ちゃんと就職できない人をつくって、それから社会保障の負担もすごく大きくなって、介護保険がみなさんいま年金から天引きされていると思いますけれど、これもどんどん負担が大きくなっていっているんです。そういうことをして私たちの生活をたっていけないようにして、それで何で一国の首相といえますか。

たとえばこの日比谷公園に入ってこられた時に、たぶん皆さん方はホームレスの姿を見られたと思います。ホームレスはいま三万人以上いるといわれています。昔はホームレスの人は、ちょっと特殊な人とみられていました。だけど、いまはそうじゃないんですね。昨日まで運送会社の社長をしていた人とか、立派な設計事務所にいたという人が、会社が立ち行かなくなる、あるいはクビになって、それである人は住宅のローンをずっと返していたから二ヶ月くらいすれば職があるだろうと思って、銀行はクビになった人なんかにお金を貸しませんからサラ金からお金を借りて、ともかく一ヶ月、二ヶ月は家を競売に付されてはたいへんですから払います。ところが、いつまでたっても職は見つからない、それで家は追い出される、妻子はいちおう実家に帰す、自分まで実家の世話になるわけにはいかない、結局住む家がなくてホームレスになった人がいまほとんどなんです。

ホームレスになっている人たちは、失うことの連続です。まず職を失った、それから家を失った、それから自分のプライドを失った。そういう失うことをずっと続けて、皆さん自殺しようと何度も思ったかしれないと言われていて、これもNGOやNPOの人たちが、そういうことを言わないでといって何とかして助けようとして炊き出しをしたりしているのですが、あのホームレスの人たちの姿みたら、何がいま有事法制かといいたい。あのミサイル一発いくらすると思います。二億円ですよ。そんなもの、いま本当に困っている人たちのために使うべきではないですか。本当に私は腹がたっています。

有事法制は、日本がうまく戦争できる国にしたいからです。なんで戦争できる国にしたいのかというと、これはいくつかの原因の一つだと思いますけれど、いま日本はアジアの国に工場をどんどん移して低賃金の工場でいろいろなものをつくっています。たとえばタイとかミャンマーとか、そういうところに投資をして工場をつくった。だけどそこで政変が起こると、財界は投資したものはもう全部無くなってしまいます。それで、軍隊でにらみをきかせるという、これがあります。それからアメリカ型のグローバリゼーション、これも言うことをきかないと何か理由をつけてやっつけるぞ、というようなことが一つの原因になっています。ですから財界の人も、昔はあまり軍隊を出すことに賛成ではなかったんですけれど、今は非常に賛成をしています。

アジアの賃金の安いところに工場が移れば移るほど、日本の国内では職が無くなって失業者がどんどん増えていくわけです。「でも、そんなことを言ってもしょうがないんじゃない」とおっしゃるかもしれません。

ですが、私はここ二年ほどドイツの失業問題を調査しています。日本は失業保険が三ヶ月、六ヶ月、最高十一ヶ月でおしまいですが、ドイツは三年間失業保険が続きます。それで三年間しても職がない場合は、失業扶助というのがあります。これは生活保護ではないので立派な家があってもかまわない。失業扶助というのは、だいた十二、三万から十五万くらいしかないのですが、それは年金をもらう年齢まで国が払います。これは、職業に皆がつく。私たちの憲法にも、労働の権利ということがちゃんと書いてありますよね。国民は労働の権利をもっている。ドイツも労働の権利をちゃんと保障していないのは国が悪いのだから国が年金の受給年齢まで払います。これで食べていけない人は、児童手当がつくし、住宅手当がつきますから、ともかくぜいたくをしなければきちっととした生活ができます。そして週十五時間までのアルバイトはやってもいいことになっているし、ボランティア活動は無限にやっていいということになっているので、日本のようなみじめな状況ではありません。すぐにホームレスになってしまうとか、そういうことはありません。しかも職業訓練というのが、日本のように一週間とか一ヶ月と、三ヶ月とかということはありません。ドイツの場合は労働の質を上げる、国際的な競争に勝つためには労働者の質を上げなければならないというので、真剣に職業訓練をしています。たとえば、保険関係の新しい仕事をする場合には三年間、生活費も面倒を見てあげて、子どものベビー・シッターの費用も払ってあげて訓練しています。だから単純労働はもっと質の高い労働にしましよう、これが経済競争で勝つことだとなっています。

日本は反対にどんどん皆のクビを切ってあわれなめにあわせて、そして財界だけが労賃のコストが安くなったらこれで利益が出ましたと言っているわけです。まるきり反対だと思います。これも憲法の二十五条、健康で文化的な最低限度の生活ですか。ホームレスの人たちがそんな生活をしていることに私たちが怒って自治体にいいますと、生活保護は働ける人には出さなくていい、というのです。それから住居不定の人には出さなくていいと。だって、住居がないからホームレスになっているんでしょう。それは、結局、生活保護をなるべく出さないように、出さないようにという国の政策なんです。

この軍事化にたいして私たちが文句を言えないように盗聴法というものがとおって、私のように批判的なことを言っている者は盗聴されているかもしれないし、それから今度の個人情報保護法案というのもそうですね。政治家が何かをしたときに、新聞記者がそういうことを書き立てると政治家の人権を保護するというので書かせないようにする、これも国会に出ています。あらゆるところで私たちはじりじり攻められて、本当に人権なんてどうなってしまうのかなと思います。

でも、皆さん今日来てくださったように、市民の力も大きくなっています。それで、今日、ここが終わったら、一人の議員にでもいいから、国会議員会館の中は入れますから、議員に心から訴えてください。私たちは平和な生活がしたいんです、ということを言ってください。それから新聞に投書をする。載らないかもしれませんが朝日新聞編集局長殿でもいいし、政治部長殿でも何でもいい。手紙を書いてください。新聞社の方もそれをいちおう社内に全部まわしています。いまは、右翼の人たちからはそういうのがしょっちゅうくるのだけど、平和を望む私たちの方は皆紳士的だから、あまりそんなことをしないんです。でも、一歩でも動いてください。それが大事なことです。それから、有事法制の委員会に一回ぐらいは傍聴にいってください。

私たちのつながりを大事にしていきたいと思っています。私はNGOの活動を十年もやっていて、その中で若い人たちが助けあうというのは本当にいいことだと言ってくれるのですね。戦争などしたって何の解決にもならない、でもこうやって、僕たちが助け合っていくなかで、本当に平和憲法をもっていることの喜びを感じていると。僕たち世界の人たちから待たれているんだというのですね。ばかばかしいイージス艦などにお金を使わないで、本当にいま餓死しかけている人、薬のない人がいっぱいいます。そういう人を助けることこそ世界から尊敬もされ、私たちが日本人として国際的な貢献ができる道だと思います。

みんなで一生懸命やっていきましょう。

このページのトップに戻る
「活動報告」のトップページに戻る