伊藤 彰信
戦争になれば、港は軍事物資の輸送基地になります。私たち全港湾は、侵略戦争の反省から「港を軍港にするな」というスローガンを掲げて反戦平和の運動をすすめてまいりました。先輩たちは、朝鮮戦争においてもベトナム戦争においても、軍事物資の荷役を拒否して戦ってまいりました。朝鮮戦争においては、朝鮮海域での特殊輸送任務において死亡した者二六名、内船員二二名、港湾労働者四名という記録があります。
新ガイドラインが締結された後、私たちは戦争の加害者にも被害者にもならないようにするにはどうしたらいいだろうかということを真剣に考えてまいりました。はじめに取り組んだ運動は、港湾の施設を軍事利用しないという「平和港湾宣言」というものを各自治体で取り組んでいただきたいということであります。
しかし、周辺事態法が成立しました。「連合」の笹森事務局長(当時)は、国会において、労働協約で拒否権を確立したいと発言をしておりました。欧米では、こういう拒否権があるわけでありますが、日本国憲法にはありません。それは、戦争をするという前提にたっていないからだと思います。
私どもは、戦争協力を拒否するためにはどうしたらいいか、このような労働協約で守れるのか、それよりは私たちの事業主にたいして戦争協力をするなという形でたたかいをすすめるという方針を確立しました。そして、港湾管理者にたいしては、周辺事態法にもとづく艦船にたいして港湾を利用させないように、また、私たちの事業主にたいしては、周辺事態法にもとづく米軍物資を、荷役あるいは輸送を請け負わないようにという要求を出してきたわけであります。一部の事業主は、私たちのこの要求を受け入れております。
なぜ、「周辺事態法にもとづく」という前提をつけたかと申しますと、私たちは平時から米軍物資の荷役をしているからであります。昨年の十一月、インド洋に向かって海上自衛隊が出発しましたけれども、その時、私たちに弾薬荷役の要請がありました。閣議に基本計画の決定がおこなわれる前に、私どもに要請があったわけであります。そして、私たちはそれを拒否したわけでありますが、弾薬を積んで海上自衛隊がインド洋に出発し、その後基本計画が策定され、本隊が出港していくという形態になっています。したがって、戦争と平和の境目などというものは無いのだと考えています。
いま出されている有事法制というのは、「協力を依頼する」というレベルから強制的に業務従事命令によって戦争に駆り立てていく法律であるわけです。日本国憲法を真っ向から否定する内容だと思います。職場と戦争という関係をもう一度見直して、決して港だけが軍事協力をしているわけではないわけでありまして、皆さん方の職場をもう一度見直すなかから、ともに有事法制反対、そして日本国憲法を守る運動をすすめていきたいと考えています。