産経報道:【政権の是非を問う】=憲法改正=見えた! 自民の衆院3分の2超 首相の狙いは一体どこに? 

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http://www.sankei.com/politics/news/141212/plt1412120014-n1.html

【政権の是非を問う】=憲法改正=見えた! 自民の衆院3分の2超 首相の狙いは一体どこに? 

 「国民投票が一番大切だ。そこで過半数を得るには国民的な理解が深まっていく必要があるが、まだそういう状況にはない。リーダーシップを発揮しながら憲法改正の議論を進めていきたい」

 衆院選が公示された2日夜のNHK番組。安倍晋三首相(自民党総裁)は「次の衆院任期で憲法改正に本格的に取り組むのか」と問われるとこう語り、改憲への意欲をにじませた。

 だが、全国遊説ではデフレ脱却に向けたアベノミクスの意義に多くの時間を割き、憲法改正を訴えることはほとんどない。与野党議員が、憲法改正をめぐり正面から論戦を挑む場面もなきに等しい。

 果たしてこれでよいのか。今回の衆院選は、平成28年夏の参院選と並び、憲法改正を現実の政治日程に載せるかどうかを決する重要な意味合いがある。そういう意味では、日本の将来を左右する選挙といっても過言ではない。

 6月20日、改正国民投票法が施行された。正式には「日本国憲法の改正手続きに関する法律」という。一般の選挙運動に当たる国民投票運動の細目も定まり、国民が憲法改正の是非を決める国民投票の仕組みが整った。後は衆参両院がそれぞれ3分の2以上の多数で憲法改正を発議するのを待つだけとなった。
しかも産経新聞など各メディアの終盤情勢調査では、自民党が衆院(定数475)の3分の2ラインである317議席をうかがう勢いを見せる。

 もし自民党が3分の2以上の議席を確保すれば、次の参院選は、自民党など改憲勢力が、参院(定数242)の3分の2を超える162議席以上を確保できるかどうかが最大の焦点となるに違いない。

 必然的に今後の国会は、憲法改正の是非が大きな争点となっていくはずだ。もちろん国民的議論も巻き起こるだろう。与野党ともに参院選までに憲法改正に対する態度を鮮明にせざるを得なくなる。

 しかも次の参院選で改憲勢力が3分の2を占めれば、憲法改正の発議を決める重要な役割を担うのは、この衆院選で当選した議員たちとなる公算が大きい。

 だからこそ今回の衆院選では、各政党、各候補とも憲法に対する考えを分かりやすく示す責務がある。有権者も、投票する候補者や政党を決める際、その候補や政党の憲法観を踏まえることが望ましい。

 にもかかわらず、憲法改正の是非を前面に掲げる政党は少ない。自主憲法制定を訴える次世代の党と、護憲一本やりの共産、社民両党くらいではないか。

 自民党は、衆院選の政権公約(マニフェスト)では論点の明記を見送った。3分の2に手が届くまたとない好機に、あえて憲法論議に火をつけるのは得策ではないという判断なのか。昨年夏の参院選公約には、党の憲法改正草案に基づき「国防軍の設置」など10の論点を挙げただけに残念だ。
ただ、憲法改正原案を国会に提出し、国民投票を実施、憲法改正を目指す約束は、昨年参院選公約に続いて残された。ここに総選挙後の首相の憲法改正戦略が透けてみえる。

× × ×

 首相はこれまで「憲法改正は私の歴史的使命だ」と語ってきた。昨年の参院選でも「われわれは9条を改正し、自衛隊の存在と役割を明記していく。これが正しい姿だろう」と語り、憲法9条改正の必要性を正面から訴えた。

 ところが、今回の衆院選では9条はもとより憲法改正に関する言及を極力控えているようにみえる。

 2日夜の民放番組では「憲法解釈の変更で、集団的自衛権が限定的とはいえ行使できるようになると9条を改正していくモメンタム(勢い)が失われるという意見もあるがどうか」と水を向けられたが、首相は集団的自衛権行使容認に伴う安保法制の必要性を訴えただけで9条改正には踏み込まなかった。

 首相は一時、まず96条(改正手続き規定)の発議要件「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」を「過半数」に改める「96条先行改正論」に傾いた。

 だが、これは「姑息(こそく)な手法」と映ったのか、各種世論調査では9条改正よりも支持が低かった。首相も11月19日の産経新聞のインタビューで、96条改正について「残念ながら国民の皆さまに十分な理解を得られなかった」としまい込んだ。

 では首相は何を考えているのか。首相に近い自民党議員はこう打ち明けた。
「首相が最初の改憲で行おうとしているのは、9条改正ではなく緊急事態条項の創設だ...」

 大規模な自然災害や有事の際、首相や内閣に一時的に権限を集中し、危機を乗り切る仕組みが緊急事態条項。世界のほとんどの憲法に"常識"として備わっている規定である。

 11月6日の衆院憲法審査会では、東日本大震災の経験などを踏まえ、委員を出している各党は、共産党を除いて、何らかの形で緊急事態条項を設ける必要性を表明した。席上、自民党の船田元・憲法改正推進本部長は「同じ方向を向いていると思うのは緊急事態や、環境権を含めた新しい人権だ」と語った。

 つまり憲法改正の最初の論点として焦点が当たっているのは、緊急事態、環境権、それに財政規律の確保という3つなのだ。これらは現行憲法に新しい条文を付け加えるだけでよく、条文修正は最小限で済む。公明党がかねて主張する「加憲」にも通ずる。

 だが、憲法改正の核心はやはり9条改正にある。自民党の結党時からの党是も9条改正を視野に入れたものだったはずだ。

 9条は、1項で条件付きながら戦争と武力行使を「永久に放棄する」とし、2項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とする。

 政府と最高裁は自衛権と自衛隊を合憲と解釈するが、これでは国を守るために命をかけている自衛隊員が浮かばれない。
もう一つ、憲法前文も問題が大きい。日本の安全を「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して委ねるかのような文面は国家としての自立を否定したに等しいからだ。

 これらの条文は戦後日本の空想的平和主義を助長してきた。東アジア情勢が不透明さを増す中、早急に9条を改め、戦争を抑止する軍隊を持たなければ、積極的平和主義は確立できない。今こそ憲法改正への道筋をつける好機である。首相と与党は9条を含めた憲法改正スケジュールを国民に示し、野党と論議を尽くす責務がある。(論説委員 榊原智)