6月28日週刊金曜日 96条先行改憲でつまずいた安倍政権

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96条先行改憲でつまずいた安倍政権、

今国会での憲法審査会をふりかえって

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第二次安倍政権下の第一八三通常国会では、衆参両議院の憲法審査会を舞台にして実質、計十七回の憲法審議が行われた。改憲の動きに危機感を抱いた市民が毎回多数傍聴した。

しかし、その審議の実態は自民党委員の出席率があまりにも悪く、その「本気度」が疑われるような事態が繰り返された。自民党が東日本大震災などを口実にして憲法に導入しようとした「緊急事態」条項がテーマとなった五月二三日の衆院審査会でさえ、五〇名の委員中三一名を占める自民党委員の出席はしばしば十数名になり、「委員の半数以上」とされる審査会の定足数が割れそうになった。出席していても大口を開いて熟睡している委員もいる始末。衆院審査会の保利耕輔会長(自民党)は自民党の船田元筆頭幹事に「欠席の場合は代理を出せ」と命令、船田幹事は自民党の全委員に異例の文書を送付した。

今国会の憲法審査会は、衆議院では前民主党野田政権下で始まった「憲法全文のレビュー(見直し)」が中途半端になっていたのを引き継ぎ、四章までをわずか二回で終え、その後、各条章のレビューを六回行った。自民党の狙いは、ともかく憲法審査会で憲法全章のレビューをやり終えて、改憲案の審議への道を開くところにあった。その後、「緊急事態条項」や改憲手続き法の「三つの宿題」について審査会が開かれた。

参議院では参考人質疑も交えて「二院制」と「新しい人権」について議論した。

これらの憲法審査会の議論を経て明らかになったことがいくつかある。

第一に、九六条先行改憲論だ。第一次安倍政権で失敗した「九条改憲論」からではなく、「九六条先行改憲論」で臨んだが、憲法審査会内外で九六条改憲論は立憲主義の否定だなどの暴露が広く展開され、その問題点が明らかになった。九六条先行改憲論には、参議院の審査会に参考人で出てきた改憲派の小林節教授(慶応義塾大)らまでが反対し、護憲派の社民党、共産党だけでなく、連立与党の公明党も消極論で、民主党、生活の党、みどりの風などからも相次いで反対意見が表明された。各種メディアの世論調査でも九六条改憲に多数が反対している。

 第二に、議論の終盤には与党公明党だけでなく、自民党の船田筆頭幹事までが九六条先行改憲論に消極論を唱えるなど、与党内の矛盾も露呈したこと、九六条改憲賛成のみんなの党も先行改憲論には異をとなえ、独自性をしめそうとしたことなど、改憲派のなかの矛盾も顕在化した。その結果、安倍晋三首相は「このままでは国民投票で負ける」とぼやき、参院選公約でも九六条「先行」改憲ではなく、公明党などが応じそうな「九条ではなく、環境権などとの抱き合わせ九六条改憲」という憲法の体をなさない改憲論に傾きつつある。

 第三に、参議院の議論では、維新の会やみんなの党をのぞく、自民党を含めたほとんどの党が「二院制」維持派だったことや、参考人らが「新しい人権」は立法措置でやるべきなどの議論が多く、必ずしも改憲論に誘導されなかったこと。

 第四に、第一次安倍内閣が審議不十分なまま強行成立させた改憲手続き法の矛盾が表面化したこと。とくに一八歳投票権問題に至っては、選挙権や民法改正との同時実施を要求している同法「附則」が定めた規定に違反する違法状態にあり、この点で民法を管轄する法務省、選挙権を管轄する総務省などの足並みの乱れが露呈した。このままでは国民投票は実施できないことから、維新の会が国民投票のみ切り離し実施を主張し、法案も提出しており、自民党もこれに傾いている。いずれにしても、参院選後、この「宿題」に取り組まなくてはならなくなっている。

 安倍首相ら改憲派は先の衆院選で改憲発議に必要な三分の二以上の議席をとり、今度の参院選を通じても三分の二以上をめざしているが、まず「九六条先行改憲」戦略でつまずくなど、その前途は容易ではない状況にある。

(許すな!憲法改悪・市民連絡会 高田健)

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