許すな!憲法改悪・市民連絡会

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「厭戦庶民の会」の「07年7月5日、憲法改悪国民投票」説などへの疑問に答えて

高田健

Bさん
おたずねの「厭戦庶民の会」が訴える「国民投票批判」の問題点について、とりいそぎ私の意見を述べます。実は「厭戦庶民の会」の代表のSさんは私もよく存じ上げている方で、人生の大先輩でもあり、これまでその運動へのあからさまな批判めいたことは自重して来ました。早い時期に、私が直接、Sさんに率直に意見を申し上げればよかったのかも知れませんが、残念ながらそのタイミングを逃してしまったようです。今回、Bさん以外にも、別の友人からの質問もありました。「厭戦」さんのこの見解が、運動界の一部では問題になっているようですので、Sさんへの失礼を顧みず、私の意見を公表することにしました(先日、ある集会でSさんに会う機会があり、このことを伝えようとしましたら、突然、大声で怒鳴り散らしていましたが、どうしたんでしょうか)。この試みが近く国会に提出されようとしている自公与党などによる「憲法改正国民投票法案」の危険な役割の暴露と、憲法改悪を許さないための市民運動の前進に少しでも役立つよう心から願っております。

「厭戦庶民の会」はその発行するチラシやサイトなどで「予想される2007年7月15日の憲法改正国民投票まで、あと2年あまりしかありません」として、「毒まんじゅうツアー」などを呼びかけています。しかし、この内容にはあまりにも問題が多く、また重大な誤りも含まれています。以下に指摘する重要な問題での事実誤認ないし謬論は、この間、憲法の運動にかかわってきた「厭戦」さんがこの問題を多少なりとも調べればわからないはずがありません。にもかかわらず、このようなトンチンカンなことを宣伝するというのは、その意図に重大な疑問を抱かざるをえません。

「憲法改正国民投票」と国政選挙(衆参)との同時実施というのは、今日、自民党と公明党がその可能性をきっぱりと否定し、その説明もしています(これ自体が「謀略」だとでも言うのであれば、それについてはまた別に論じますが)。だからあらかじめ、2007年参院選の際の「国民投票」に備えるべきだなどと断定して、キャンペーンをすることは、運動の方針としては成り立たないのです。ただただ人びとの危機感を煽り立てるために、事実とも全く異なる「2007年参院選の際の国民投票」などということを言いふらすようなことでは、改憲派に足をすくわれかねないだけでなく、いたずらに運動内部に混乱を作り出し、結果としてその言を信じて危機感を抱いて立ち上がった善意の賛同者の失望も招くことになり、運動に有害な役割を果たすことになる可能性があります。

先の結論を繰り返しますが、「厭戦」さんの宣伝の第1の問題点は、その宣伝の大前提である「2007年7月15日の参議院議員選挙の日」には憲法改定の国民投票はほとんどありえないということなのです。これだけで「厭戦」さんのキャンペーンの立論の全てが消えてしまいます。

彼らがいうように、改憲派とのたたかいのための「時間的余裕はない」のは否定しませんが、こうした単純な誤りを前提にして残された時間は「2年あまりしかない」などというのはまったく正しくありません。こうした言動は少なくとも運動の提唱をする者は固く戒めるべきことです。いつ、改憲のための国民投票が行われる可能性があるのかという判断は、運動にとっては死命を制するほどの重要問題です。この判断のいかんで私たちの中長期的な運動の方針と活動のありようは大きく左右されます。危険性を警鐘乱打することは必要ですが、それにはあくまで事実にもとづいた、できるだけ正確な提起が必要です。「狼が来る」と村人を繰り返し脅した「オオカミ少年」は本当にオオカミが来たときに村人に信じられませんでした。失礼ながら、「厭戦」さんはこの問題ではまさにオオカミ少年の役割を演じています。

私がこのようにいう理由の第一は次のような事情によります。
憲法96条には改憲の国民投票は「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際に行われる」と規定してあり、一般的に言えばこの国民投票は国政選挙と一緒におこなわれる場合と、それ単独で行われる場合との2つのケースがありえます。

厭戦の会のサイトでは「(1)特別の国民投票とは、国会議員の選挙に関係なく特別に、ある意味では議員にも国民にもそれほど準備のないうちに、唐突に行われる国民投票。たとえば2006年の通常国会で、3分の2以上の議員が賛成したために行われる国民投票。現実の問題としてありえない(2)衆議院選挙では、突然の解散もあり得るし、時期的に不安定。各政党も事実上、準備出来ない、(3)だから、自公民合意の国民投票は2007年7月15日(日)の衆(ママ)議院選挙と同時におこなわれるだろう。その次は2010年7月」と説明しています。しかし、これは全く説明にもなりません。(3)でこっそりと「その次は2010年7月」と逃げ道・留保条件を書いているのが滑稽ですが、これも逃げ道にもならない誤りです。そして「厭戦」さんは、実際の宣伝の時にはこの留保条件にすら全く触れないのです。

これまで「憲法改正国民投票」に関する法案の草案の主なものは、2001年に「超党派」の憲法調査推進議員連盟(会長・中山太郎)がつくった「国会法改正案」「国民投票法案」と、2004年12月に自民・公明の与党協議会実務者会議が合意した「日本国憲法改正国民投票法案骨子」(案)と、2005年4月につくられた民主党憲法調査会役員案の「憲法改正国民投票法制に関する論点とりまとめ案」の3つがあります。

ここで問題になっている「投票期日」に関しては、議連案は憲法の規定通り国政選挙と同時実施の可能性も含んだものでしたが、自公案ではそれを「削除」しました。そして「『与野党が政権の維持・獲得を目指し、争う国政選挙』と『与党と主要野党間で合意した憲法改正案に対する賛否を争点とする国民投票』との性格の相違にかんがみれば、国民投票と国政選挙は別個に行われることが適当であることから、両者が同時に行われる場合を念頭に置くことなく、国民投票の期日の告示日を定めることとした」と説明しています。国政選挙との同時実施の明確な否定です。一方、民主の「とりまとめ案」ではその「論点14」というところで「国政選挙と憲法改正国民投票は、分離して行うことを原則とする」と述べています。民主党も同時実施否定です。その「補足資料」では「政権選択を迫る国政選挙において、二大政党が激しく対立している中、憲法改正において両党合意の上での行動をとるのでは、有権者(国民投票権者)が混乱するおそれがある」からだと説明しています。そして民主党内にある9条護憲の意見についてと同じ扱いで、少数意見として「二つの投票を統一して行う」という意見もあることを附記し、「同時実施のほうが投票率が上がる、事務軽減につながる」などとの理由を附記しています。以上見てもわかるとおり、「厭戦」さんが国民投票が実施される時期を2007年7月に絞っているのはとんでもない誤りになります。

第二の理由は、あまりにも当たり前すぎてもはや説明する気力もありませんが、現下の政治闘争の展開の分析から見て、改憲派が2007年7月までに憲法改正問題を国民投票に持ち込める可能性はほとんどないということです。ご承知のように国会における改憲の発議のためには、両院で総議員の3分の2以上の支持が必要です。現在の国会の勢力比を考えると、自公与党は安定多数ではありますが、3分の2には遙かに及びません。そのためには民主党あるいは同党所属議員の多数部分の支持が不可欠です。ですから、自民党は、独自色の強い改憲要綱などを作りつつも、一方では水面下で民主党との妥協の道を懸命に探っているのです。しかし、民主党にとっては、当面、次回の総選挙での政権奪還が主要な政治戦略ですから、当面、改憲問題での自民党との妥協案の策定にはあまり熱心ではありません。国民投票法案作成での妥協には応じるとしても、改憲案の合意にはすぐには応じないでしょう。そうでなければこの党の政権戦略が成り立たないからです。ですから、改憲派が懸命に頑張ったとしても、3分の2の支持を得ることが出来る改憲案の策定には、どんなに早くても次の総選挙よりは後、つまり、あと数年以上はかかるでしょう。つまり、この角度から考えても「2007年7月」というのはあり得ないのです。

先の自公案の結論と、政治情勢の判断という二つの理由からして、「ほとんどない」の二乗は「ほぼまったくない」という数式になります。

少し余談になりますが、これに関連して、おもしろい話を2つ附記しておきます。
その1。当初の議連案では国民投票の有権者に「軽度の公選法違反者」というのを加えていました。これは憲法の国民投票と、議員を選ぶ選挙とは性質が異なり、公選法違反者にも国民投票の投票権を与えるべきだという考えによります。実はこれは一理ある考え方なのです。「公選法違反者の救済」などという話は別として、「18歳有権者、15歳有権者問題」など年令制限の問題や、定住外国人を有権者に加えるべきという問題などにつながる論点なのです。しかし、そうすると、同時にやれば国政選挙の投票人台帳と国民投票の投票人台帳が異なることになり、選管は2種類の投票人台帳を作らなくてはならなくなるということで、選挙の実務が極めて煩雑になる問題が起きたのです。これは悩ましい問題です。そこで、自公案では「公選法違反者の救済」をあきらめて、安易な「公選法通り」ということに戻ってしまったのです。私たちは、憲法の問題の国民投票には15歳以上の者を参加させよ、とか定住外国人も参加させよと言うべきでしょう。

その2。改憲派は憲法改正国民投票法案がないことを憲法96条に関する「立法不作為」だ、国会の怠慢だなどといって、国民投票法案の導入を主張してきました。「改憲をする、しないにかかわらず、96条があるのだから国民投票法案がなければならない、これがないのは立法不作為だ」というのです。この見解もただしくないのですが、百歩譲って、もしそうだとすれば、96条には国政選挙との同時投票の場合も想定しているのだから、今回の自公の国民投票法案はこの部分が欠けるもので、96条からくる「立法不作為」は解消していないことになります。改憲派の口実の自己矛盾になるのです。「立法不作為」論がいかにでたらめなものであったかの証明です。

Bさん
さて第2の問題です。「厭戦」さんは、いずれ実施されるであろう国民投票を、「自衛隊を陸海空軍に名称変更すること、環境権、プライバシー権などの新しい人権を憲法に規定すること、改憲手続きを簡略化すること」とし、これらがそれぞれ○か×かが問われるが、「ひとつでも○をつけたらあなたは改憲派です。9条は死んでしまいます」「どんな項目がだされても、ひとつも○をつけない!全部×をつけると断言できる人をひとりでも多く増やしましょう」「予想される2007年国民投票に全部×をつけよう」と宣伝しています。

「全部×をつけよう」というのは正しそうに見えます。しかし、待ってください。「厭戦」さんが想定している国民投票方式は「逐条投票」というもので、提起される改憲条項が「一事項・一投票主義」(ワンイシュー・ワンボート)で行われることのみを前提にしています。しかし、自民党が考えているのはこれとは全く異なる「一括投票方式」というとんでもない非民主主義的な方式なのです。この問題も私たちはずっと批判してきました。あまりに酷いので、さすが民主党も「個別テーマごとの投票方式を原則とする」べきだとチェックを入れています。批判が多いので今回の自公案はこの問題の結論を「必要な事項は、憲法改正の発議の際に別に定める法律の規定によるものとする」と先送りし、法案には投票方式を書き込まないことにしました。自公案は改憲の発議の際に「一括投票方式」を多数意見で強行採決できるようにしたのです。ですから私たちは、これを投票方式すら提起しない「国民投票法案」は法案の体を為していない欠陥法案だと指摘してきました。

だから、逐条投票になるか、一括投票になるかは今後の私たちの闘いの結果によるのです。自民党は九条改憲を新しい人権などに混ぜ込んで、一括で投票させ、「新しい人権が入っているから、9条改憲でもやむをえないかな」と、多くの人びとを改憲賛成にしたいのです。そうしないと、9条改憲に消極的な世論の反映で敗れるかもしれないと恐れているのです。「逐条投票」でやると、「新しい人権(まんじゅうの皮)」だけ食べられて、「九条改憲(毒まんじゅうの中身)」がすてられるのを自民党は恐れています。だから「厭戦」さんのように、この投票方式をめぐる重要な闘いをあらかじめ放棄して、根拠もなしに逐条投票が実現するかのように煽るのは危険な道なのです。この問題で、いま重要なことは「一括投票方式」の反動性を暴くことです。このための暴露を回避してはなりません。「厭戦」さんは目前の闘いを避けて、あとで闘おうといっているのと同じです。関連して、もうひとつ指摘しますが、じつは「厭戦」さんが言うのとは違って「○か×か」という方式もまだ決まっていません。「改憲発議の際」の国会で、いま行われている最高裁判官の信任投票のように、「改憲反対は×、賛成は無印」というのを自公が決めるという最悪の可能性まで、まだあるのです。これらさまざまな可能性を考慮にいれないでやっている「厭戦」さんの「模擬投票」は児戯に等しいと言われても仕方がないものです。

Bさん
第3の問題です。「国民投票法案」の重要な問題点は、他にもいくつもあります。その暴露を回避して、「2007年国民投票」にだけ人びとの目を向けさせようとするのはいかがなものでしょう。市民連絡会はすでに「何がなんでも9条を変えるための『国民投票法案』」というリーフレットで多々指摘しています(市民連絡会のサイトにも掲載されています)から繰り返しませんが、すでに本論で述べた(1)15歳投票権や定住外国人の投票権など投票の有権者の問題の他にも、(2)「国民投票の過半数」というばあいの何の(有権者のか、投票総数のか、有効投票のか)過半数かの問題、(3)国民投票の有効性(有権者の過半数の投票がなくても有効と認めるのか)の問題、(4)メディア規制などにつながる宣伝の規制の問題、D公務員や教員などの活動の不当な規制の問題、投票妨害に名を借りた運動の規制の問題、E国民投票運動の周知期間の不当な制限の問題、などなどたくさんあります。これらひとつひとつの暴露を通じて、今日、自民党と公明党が用意しつつある国民投票法案の非民主主義的本質を曝露し、その成立を阻んでいく運動をつくりだす課題は極めて重要です。「厭戦」さんのように、こうした課題の運動をあらかじめ放棄して、ありもしない「2007年7月15日国民投票に×を」などと宣伝するのは、極めて重大な誤りです。

Bさん
いま私たちがやるべきこと、これからできることについて、私の意見を最後に述べてこの長い手紙を終えましょう。

  1. この162国会にだされようとしている「憲法調査委員会設置のための国会法改定」案に反対し、そこで審議するための「憲法改正国民投票法」案の上程を阻むこと。この危険なねらいを暴露するため、署名運動や、街頭宣伝などを強めること。これらを背景に野党、とくに民主党へのはたらきかけを通じて、国民投票法案の与野党合意を阻止し、162国会への上程を阻止すること。
  2. 改憲、とくに9条改憲反対の思想・信条・政治的立場を超えた最も広範なネットワークを作りつつ、その世論を高めること。そのために全国いたるところに、草の根の共同のネットワークを生み出すこと。たとえば「九条の会」はこの10ヶ月で全国に1300カ所近くで生まれましたが、このようなものをさらにさらに多く、草の根で生み出すこと。
  3. 9条擁護の国際連帯、とりわけ東アジアでの国際連帯の運動を生み出すこと。
  4. これらと結合して、イラク反戦、沖縄反基地、アジア民衆連帯の運動を強めること。
  5. これらの準備を経て、改憲派が国民投票に踏み出す前に、9条改憲反対の5000万人署名運動を提起し、実現すること。

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